空気を変え 風を呼び込む
ポスターには 力が秘められている
国鉄原宿駅の大正モダン建築の改札を出て神宮橋でスケートボードに飛び乗った。日曜日の歩行者天国も陽が傾くと人出は一段落したようだ。東京オリンピックのために建てられたアーチ状の体育館を左手に望みながら人の波を縫い進むと革ジャンのロックンローラー、竹の子族、大道芸人、回転するブレイクダンサー、即席ステージのバンドが思い思いにパフォーマンスに興じる姿が目に飛び込んでくる。1987年初夏、本格的な暑さが訪れる前、沿道のけやきの木漏れ陽がキラキラと輝いていた。代々木公園を東から西につらぬく都道413号線に掛かる歩道橋手前から先はスケーターの陣地である。70年代後半にホコテンが始まって以来スラローマーやフリースタイラーによって受け継がれてきた。
屋台から漂ってくるイカ焼きの香りと無数のバンドのスピーカーのノイズを打ち消すゴーっというアスファルトを振動する重低音が近づいてくる。ゴトンとコンパネが響き一瞬の無音からパンと4つのウィールが着地するとワーっと歓声があがった。スケーターたちがジャンプランプで空を舞っているのだ。全国から自然発生的に集まってきたスケーターはMADE IN USAのデッキにエアウォークやバンズ、蛍光色のライフザビーチ、モノトーンのジミーズとまるで雑誌Fineから飛び出てきたような格好でキメている。僕は愛用の一眼レフ、オリンパスOM-1NにZUIKO21mm f3.5の超広角レンズをつけ35mmのリバーサルフィルムを装填した。スケーターたちは繰り返し公道の滑走路でスピードをつけ太陽に届かんばかりに打ち上がった。サトシは両足を合わせるロケットエア、トシヤスは360そして写真のヨッピーはリラックスしたスタイルで背中を反らしてメソッドを決めた。スケーターの熱気に吸い寄せられて人垣が出来た。マックシェイクのカップを片手にした親子連れはプロモーションかショーと思ったかもしれない。けれどもこれは偶発的なものであった。アメリカ西海岸のベニスビーチのようにスケーターが滑りギャラリーと共に生み出す鼓動だ。僕らはただその一瞬を楽しんでいた。
Yoshifumi Egawa1987年
江川芳文
1972年生まれ
ストリートファッション界のカリスマ。80年代のスケートボードブームのなかで頭角をあらわしモデル・タレントとして活動しながら飾らないキャラクターで人気を博す。
90年代 裏原ムーブメントの起爆剤となったHECTICを立ち上げ現在はHombre Niñoをブロデュースするスケーター。
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